Handwerker - ハンドベーカー

Handwerker
  • Photographer
    ...HIROMICHI UCHIDA(THE VOICE MANAGEMENT)
    Model
    ...DAISUKE MOTOGI
    Editor/Writer
    ...AYAKO MASUDA

Vol.08
Thinker shirt

建築家
元木大輔さん



普段着に適した、普遍的なワークウェアーを作り、シーズンによってほぼ変えることなくコレクションを制作してきたHandwerker。毎回、魅力を感じる仕事をしている方に着ていただき、撮影を行ってきました。
「せっかくいろいろな職人の方に着ていただくなら、1アイテムだけでも、その職業のためだけのアイテムをデザインしよう」と、2018AWから、ひとつの職業の方とともに、作業するための服を作るシリーズをスタートしました。

DDAA/DDAA LABを主宰する元木大輔さんは、店舗やオフィスのデザイン、展示会の会場構成、家具のデザインからランドスケープまで、建築と空間、プロダクトを専門に、ジャンルにとらわれずにデザインを行なっています。
ガードレールに引っかけられるベンチを勝手に設置する「ベンチ・ボム」、アルヴァ・アアルトデザインのStool 60とそのジェネリック品を改変する「Hackability of the Stool」、長崎県波佐見町に陶磁器メーカー「マルヒロ」とともに作った公園「HIROPPA(ヒロッパ)」など、国内外で広く注目されるプロジェクトを次々に発表。ユーモアを交えながら、常に新たなものの見方を示し続ける元木さんに、ものづくりやデザインへの思い、ふだん身につけている服のことなどを伺いました。







----------建築家になろうと思ったきっかけはありますか。

小さいころは絵を描いたり、何か作ったりするのが好きな子どもでした。父親は車のエンジニアで、母親は生け花やフラワーアレンジメントの先生で毎日のように花を生けていたのですが、そういう環境も影響しているかもしれません。家具は高校生のころから好きでしたね。思い返すと、両親が籐の家具が好きで、家にたくさんあったのでなじみがあり、今も好きで、事務所にもいくつか籐の椅子を置いています。大学生のころはお金がなかったこともあって、拾ったり、買ったりした中古の家具を直して使っていました。大学(武蔵美術大学)の工房にはあらゆる工具がそろっていたので、それを借りて、DIYで一からベッドを作ったこともあったし、授業以外でも作ることは日常でした。建築家になりたい、デザイナーになりたいと強く思って目指したというわけではなくて、ずっとものづくりが好きだったことが今につながっていると思います。

----------今はどのようなお仕事をされているのですか。

クライアントワークを行うデザイン事務所「DDAA」では、もうすぐ開業するホテルやスケートパーク、デパートの環境計画など大小合わせて約15のプロジェクトが進行しています。プロトタイプ(製品の原型や試作品)を作ったり、リサーチなどのR&D(Research and Development)業務を行う「DDAA LAB」では、家具やプロダクトの開発、都市のリサーチ、変わったところでは、自動操縦の小型ヨットを使ったスタートアップとの共同プロジェクトなどもあります。
今はだいたい合わせて20以上の仕事が同時進行しているので、こっちのアイデアがこっちにフィードバッグする、なんていうこともよくあって、メリットも多いですよ。





----------アイデアはどんなところから生まれますか。

生活するなかで、常にいろいろなものを見ながら考えています。もう寝るぎりぎりまで。オンオフの切り替えが下手なので、常に何かが気になってしまうんですよね。タクシーに乗っているときも本を読んだり、携帯を見たりして、ボーッとすることがほぼなくて。何もない時間を強制的に作るために走ったり、歩いたり、シャワーを浴びたりしますが、そういう時間にいいアイデアを思いつくことが多いです。

今、渋谷に作っているホテルは全部で160室あるのですが、「照明をどうするか」となったとき、調光器具を入れるとコストがかさんでしまうので、ブラインドを使ったアイデアを考えました。もともと光を遮るものだから、壁に照明を埋め込んでブラインドをランプシェードとして使えば、スラット(羽根)の開閉で光の強さを調節できるんじゃないかと思って。日常でよく目にするドアの開け閉めや光漏れを観察したりと、気にしながら過ごしていると、ヒントがたくさんあります。



----------これまでに影響を受けた人はいますか。

学生時代に展示を見て、「何だ、これ!」と衝撃を受けたのが、オランダのデザイン集団「Droog(ドローグ)」。かっこいいのにかっこつけてないし、アイロニー(皮肉)もあるところがよかった。それまで「デザインってかっこつけてる」と思っていましたが、「Droog」を見て、そうじゃないものもあるんだと思えたし、楽しみ方がわかったんです。
自分が作るものも、きちんと仕上げるけれど、きれいにしすぎない、抜けたところがあるほうがいいなと思っています。ピシッと決めすぎると恥ずかしくなってしまうというか。音楽でも上手に弾くより、音がずれてもかっこいいほうがいいし、果物でも傷ひとつないようなきれいすぎるのは好きじゃない。全般的にととのいすぎていない、味があるものに惹かれますね。

----------仕事を楽しいと感じるのはどんなときですか。

もともと見たり、調べたり、考えることが好きなのですが、仕事が来ると、クライアントが考えていることを知りたくて、調べたり、実際にやってみる。そうすると知識が増えるし、ルーティンワークにならなくて、楽しいです。
たとえばお寿司屋さんをデザインしたときは、寿司屋を巡るだけじゃなくて、寿司教室に行ってみました。魚をさばくところから教えてくれて、アジやブリをさばいて握ったのですが、むずかしかったですね。でも一度でもやってみると、職人さんがいかにすごいかが知識だけでなく実感としてわかるし、見えてくるものもあります。また、確か北大路魯山人のエッセイにあったのですが、軍艦巻きを発明したのは、銀座の寿司店「久兵衛」なんだそうです。それまで寿司ネタとしてなじみがなかったイクラやウニを、握らずに海苔で固定する方法で完成させた。当時の保守的な業界にあっては非難を浴びたようですが、今では極めて一般的ですよね。名店はおいしいだけでなく、業界全体の前進にも貢献しているとわかって、おもしろいなと思いました。
 3歳から17歳までバイオリンをやっていたこともあって、小さいころから音楽を聴くのも、演奏するのも好きで、たまたま聴いていいなと思ったり、映画に使われている曲が気になって調べる、といったことをよくしています。それと同じ感覚で、デコポンを食べておいしかったから、成り立ちを調べたんです。清見タンゴールというオレンジと中野3号というポンカンの遺伝子を組み合わせたことを知って、そこからみかんの品種改良に興味を持ったので、また調べて。そんな話を仕事で会った方にしたら、みかん農家の方々が集まるサミットのシンポジウムに登壇することになった、なんてこともありました(笑)。みかんが大好きなので、楽しかったです。

日ごろから何事も好きや嫌いでは判断しないようにしていますが、見たり、調べたりすると、だいたいのものはおもしろい。一度気になったら興味が薄れることはなくて、好きなものがどんどん増えていくんです。音楽は、クラシックやレゲエ、現代音楽など、ジャンルによってそれぞれのよさががあって、楽しみ方も違いますよね。それを知っているから、ほかのものにも当てはめて考えているのかもしれません。
建築や空間の仕事は、生活すべてに関わります。加えて、作るもの自体だけでなく、接続する街や風景のことも考える必要があるし、公共的な要素があるものなら、それも頭に置いておかないといけません。大変なこともたくさんありますが、対象が多い分、あらゆることを知って、考えることができるから楽しい。あらゆることを楽しむ才能だけはあったんだと思います。



----------服は好きですか。

好きです。思春期にファッションに興味を持つことは、あらゆる文化の入り口になっていると思うんですよね。中学生や高校生のころはストリート系の雑誌が好きで、スニーカーのカタログページを見たくて買った号に、松田優作特集やスタンリー・キューブリック特集があったことを覚えています。それがきっかけで、ファッションだけでなく、映画や音楽にも興味を持って、観たり、聴いたりすることが多かったです。
10代のころは古着が好きでしたが、今は一日のなかで、大きな企業でプレゼンをすることもあれば、工事現場に行くこともあるので、仕事内容によって変えなくていい服を選んでいます。最近はクライアントが作っている服や靴を着ていることも多いです。プロダクトを理解して仕事をしたいから、できるだけ身につけるようにしているんです。やっぱり身につけると考え方がわかるし、わかるとより楽しく感じられるんですよね。
「Handwerker」の服は、全体はもちろんですが、何よりディテールがいいなと思います。ステッチの感じやボタンのつけ方など、随所にクラフト感があるのが好きです。アナログな感じというか。

----------今回の「Thinker shirt」はいかがでしたか。

着心地がすごくいい。まるで着ていないみたいに軽いし、締めつけもなくて動きやすいです。ポケットが大きめだから、スマートフォンとペン、小銭も入れて、手ぶらで歩けそうなのもうれしいですね。
実は、最初はどんな服を作りたいかが思い浮かばなくて。でも(デザイナーの)玉井くんに、「オンオフの切り替えがいらなくて、着脱しやすくて、少し雑に扱ってもOKで……」と話していたら、「それ、外に出られるパジャマだね」って。今回、自分はそういう服を求めているんだとわかりました。
本当はTPOによってファッションをいろいろ楽しみたいのですが、Tシャツや靴下は同じものを買いそろえて統一しているし、かばんもひとつだけ。ふだんからコーディネートを考えることはほぼないんです。ボトムはネイビーやグレー、カーキが多いのですが、このシャツならどれでも合うから、出番が多くなりそう。平日にラフな格好で出かけて、急にかたい場所に行くことになったときや、休日にかっちりしたジャケットを着るのは嫌だなというときも重宝すると思います。





----------仕事をする上で大事にしているのはどんなことですか。

ストレスをなくすこと。ストレスの原因はだいたい人間関係なので、人と丁寧に接する、信頼できる人としか仕事をしない、気にしていることを伝えてミスコミュニケーションをなくすなど、やっていることはシンプルです。単純にものづくりが好きだから、その時間を増やすためですね。
ものづくりは好きだからやっているし、世の中にあったほうがいいと思っていますが、いいものも名作もすでにたくさんあるから、自分が新しいものを作らなくたって誰も困らない。だから「Hackability of the Stool」や、以前、イベントで作ったチップウレタン(ソファの中に入っているウレタン端材の再生品)のソファなど、もともとあるものに何か付け足したり、使わなくなったものを捨てずに生かして、違う使い方や価値を見出すことができたらと考えています。
デザインとは、現状が少しでもよくなるように考えて工夫すること。そう考えると、特別なことではなく、ふだんから行っている日常的な行為だととらえることができます。これからも、見慣れたものや風景が少しだけよく見えたり、愛情を持てるようになったりするような、新たな視点や楽しさを提示していけたらいいですね。

元木 大輔(もとぎ だいすけ)
埼玉県生まれ。武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業後、「スキーマ建築計画」に勤務。2010年に建築、都市、ランドスケープ、インテリア、プロダクト、ブランディング、コンセプトメイク、それらの多分野にまたがるプロジェクトを建築的な思考を軸に活動する建築・デザイン事務所「DDAA」設立。2019年、スタートアップの支援を行う「Mistletoe」とともに、実験的なデザインとリサーチのための組織「DDAA LAB」設立。著書に「工夫の連続:ストレンジDIYマニュアル」(晶文社刊)、 「Hackability of the Stool スツールの改変可能性」(建築の建築刊)。
https://dskmtg.com

(2021年11月 取材)