Handwerker - ハンドベーカー

Handwerker
  • Photographer
    ...HIROMICHI UCHIDA (THE VOICE MANAGEMENT)
    Model
    ...HISAYUKI NISHIBEPPU
    Editor/Writer
    ...AYAKO MASUDA

Vol.11
HW florist vest
HW florist trousers

花屋店主
西別府久幸さん



普段着に適した、普遍的なワークウェアーを作り、シーズンによってほぼ変えることなくコレクションを制作してきたHandwerker。毎回、魅力を感じる仕事をしている方に着ていただき、撮影を行ってきました。
「せっかくいろいろな職人の方に着ていただくなら、1アイテムだけでも、その職業のためだけのアイテムをデザインしよう」と、2018AWから、ひとつの職業の方とともに、作業するための服を作る“Handwerker laboratory”シリーズをスタートしました。

東京・南青山で「花屋 西別府商店」を営む西別府久幸さんが主に扱う花は、ニュージーランドやオーストラリア、南アフリカなどの乾燥地帯に生息する“ネイティブフラワー”。無骨で、思うままに葉が伸びていたり、茎がうねっていたり、花が深い色合いをしていたりと、いわゆる花らしい花とは少し異なります。その花を、ともに店を営む「はいいろオオカミ」の佐藤克耶氏が選ぶロシアのアンティークの器と組み合わせることで新たな魅力を生み出し、空間と合わせて提案しています。
西別府さんのふだんの一日を追いながら、花の仕事をはじめ、作家活動や好きな服についてお伺いしました。







----------学生時代はどんな仕事をしたいと思っていらっしゃいましたか。

鹿児島で生まれ育って、高校を卒業して、はじめはスタイリストを目ざしていました。 ふたりの姉の影響で、中高生のときからいくつかファッション誌を読んでいて、ずっと「スナップに載りたい」「東京に行きたい」とか、そんな憧れの気持ちがあって。 漠然と「洋服の仕事がしたい」と考えるようになったころ、雑誌に載っていた東京にあるファッションの専門学校の広告を見て、行くことにしたんです。 その学校にはこれまで見たこともないような、とにかく個性的なファッションの人がたくさんいました。当時の僕は、黄色のポロシャツにネクタイを締めて、暑いのにレッグウォーマーをして、みたいなファッションで(笑)。 自分では最高にかっこいいと思っていたけど、地元で歩いていると浮いてしまう。でもここでならそれもありだし、なじむなと思えて、それだけで「ここ、おもしろいな」って。好きなものをわかってもらえる人と出会えたのも大きかったですね。
在学中からスタイリストの方のお手伝いを始めて、卒業後はそのままアシスタントになりました。 忙しく働きながらも、勉強になることも多かったのですが、時間が経つうちに違和感が強くなってきて。 もとは自然の植物からできた糸を紡いでつくった洋服、それをモデルさんにコーディネートすることへの違和感、これは何だろうと考えたときに「ゼロからものをつくりたい」と気づきました。 ゼロからつくったもので人に喜んでもらって、それで生きていきたい、と。

----------花屋の仕事に就くまでの経緯を教えてください。

山育ちなので、地元にいるときは植物はそこにあるのが当たり前で、特に意識したことはありませんでしたが、そのころ仕事で疲れて癒しを求めたときに緑や自然を欲して。 太陽に向かってワーッと枝が曲がっていたりするような植物を欲していましたが、都会にある緑は人が植えることが多いし、手入れされていて、お利口さんなものが多いんですよね。 そんなときお花屋さんが目に入って。そこはたくさんのネイティブフラワーを扱っていました。 野生で、品種改良がされていないネイティブフラワーが大量に、バサッと無造作に置かれていたのが、もう衝撃的で。 たまたまスタッフを募集していたので、迷わず次の日に「働きたいです」と伝えに行きました。 花屋で働いた経験もない、まったくの素人でしたが、車の運転ができたのと、体力には自信があったので、「それだけです」と言って。
入ってから3年間、仕事は掃除と運転だけだったし、スタイリストと同じくハードな仕事ですが、自然物で何かを表現したいという気持ちだけは持ち続けていたので、辞めたいとは思わなかったです。 好きなことだったら、多少大変でも耐えられますね。3年経って、初めてお花をさわらせてもらったときは、楽しくてしょうがなかったです。
お店はウエディングが主体だったので、ウエディングブーケやゲストテーブルに飾るお花を毎週のようにつくっていました。 次第に、一瞬しかない、花の一番きれいなときだけを見せることに違和感を持つようになって。 あとはやっぱり地形や光、風などの環境で形が変わる、あるがままの姿をしたネイティブフラワーに惹かれる気持ちが大きくなっていきました。
ネイティブフラワーは社長が好きで仕入れていたのですが、ちょっと個性的だからか、当時はまったく人気がなかったです。 でも東京・表参道にある美容室の一角にネイティブフラワーだけのお店を開くことになって、そこで8年働いたうち、最後の2年間は、社長の計らいでそのお店を任されていました。 なかなか売れなくて、一日の売り上げが300円なんていう日もありましたが、好きなものしか置いていなかったのでおもしろかったですね。 100人にひとりくらいの割合で、熱狂的なファンになってくださる方もいたりして。





----------お店を始めたきっかけを教えてください。

今、一緒にお店を営んでいる「はいいろオオカミ」の佐藤とは、お互いに広くは求められないもの、マニアックなものを扱っている者同士気が合って、もともと友人でした。 彼が仕入れるのは、ミルクの保存用に使われていた壺、ゴルショークや水がめなど、日常づかいして味が出た、人が使った痕跡が残る器。 その素朴で実用的な器に、ある日、僕が好きなお花を入れたとき、心を動かされて。時が止まっているアンティークと今を生きるお花の時間軸のずれに惹かれたんです。 それで「一緒にやりたい」と思って、2014年に独立しました。「ものや花を売りたいというより、自分たちの世界観を体感してほしい」という思いも共通していたので、佐藤もすんなり受け入れてくれました。 器も、そのままの状態より、お花を入れて使っているところを見せたほうがお客さまもイメージがわくので、相乗効果が生まれていると考えています。



----------ネイティブフラワーのどんなところに魅力を感じますか。

人の意志が入っていなくて、より自然であるというところが一番ですね。 長所としては、暑さに強くて、長持ちします。 ネイティブフラワーがバラやガーベラなどのいわゆるお花らしいお花より人気がないのは、お花を買うのは女性がほとんどなのと、お祝い事であげる機会が多いのに、華やかさがないからでしょうか。 基本的に、自分のために買う方が多いのではないかなと思います。
これまでそのよさを伝えてきたなかで、一部の人にしか伝わっていないと感じることもありますが、以前と比べて花市場での取り扱いも増えてきました。 一番は流通面で、いろいろな国のものが日本に入ってくるようになったのが理由ですが、ニーズも高まっていると感じます。 今、店で買ってくださるのは、30〜50代の男性が多いですね。
ネイティブフラワーのなかで特に好きなのはバンクシア。 無骨な見た目にも惹かれますが、生態系がすごくおもしろいんですよ。 南アフリカやオーストラリアなどの乾燥地帯にはユーカリがたくさん生えているから、木がこすれ合ってよく山火事が起こるのですが、バンクシアの種子はその熱で発芽するんです。 果実は中の種子を守るためにとても硬くて密度が高いから、熱がないと発芽しない。 山火事が多いから、そういう生態系に変化していったようです。まさに自然を感じるし、強さや儚さを感じてぐっときます。

----------仕事をするうえで大事にしているのはどんなことですか。

お花の仕事は何より出会いなので、直感はすごく大事にしています。 いつも朝、市場に行くまでどんなお花があるかわからないのですが、迷っていたらほしいお花がなくなってしまうので、直感で瞬時に判断して選びます。 市場には探しているお花がないことのほうが多くて、事前に「青いお花がほしい」と思っていたのになかった場合は、直感を働かせながら「冬だから白にしよう」とすぐに切り替えたり。
選ぶ基準は「好き」というだけではなくて、お花、実のもの、葉っぱ、とバランスを頭に置くようにしています。 器に生けるときは、どうしたらお花が心地よくいてくれるかを考えてますね。 迷いながら作業するとお花に伝わってしまうし、それがお客様にも伝わってしまうので、ここでも直感と、あと潔さが大事です。 花束をつくるときは贈る方の好みも伺いますが、僕はその方のことはわからないから、買いに来てくださった方の服装を見て好みを感じ取って、その方に向けてつくります。 そこは前職での経験が生きているのかもしれません。

----------服を選ぶときに大事にしているのはどんなことですか。

接客で花を手に持つときのことをイメージして、服が際立つのではなくて、花になじむものを選びます。 目が行くのは、土や葉っぱの色など、自然の色。原色よりは時間の経過を感じるような、味わいがある色が好きですね。 選ぶ花の色も服と共通していて、土や葉っぱの色、アンティークカラーなど、深い色合いが多いです。
常に好きなものを身にまとっていたいタイプなので、仕事のときに着る服も、ふだんの服も変わりません。 しかも一度「好き」となったら、毎日のように同じ服をヘビロテするから、数はあまり持っていないです。 好きな服はずっと着ていても飽きないんですよね。 よく使うところにシワができたり、ひざがすれていったりするのを見ると「生きてる」と実感できるし、そのシワやすれは自分にしかできないものだから、喜びを感じます。



----------今回、一緒につくったベストとパンツはいかがでしたか。

どんな作業をしているときも動きやすいなと思いました。 天然素材が好きなので、表はコットンリネン、裏はコットンというのもよかったです。 冬の市場は寒いので、中綿入りで暖かいのもうれしいですね。 歩いていると道端の雑草や枝に目が行って、拾うことが多いので、ベストの大きなポケットは活躍しそうです。
セットアップは正装のときしか着ないので、とても新鮮で、背筋が伸びる思いでした。 植物学者の牧野富太郎さんは、大好きなお花に失礼がないように、お花を摘むときは正装していたそうなので、その気持ちが少しわかった気がします。





----------これからやってみたいことはありますか。

花の一番きれいなときだけでなく、種から育って根が生えて、根が水を吸って茎が伸びて、葉が出て光合成をして、花が咲いたら種ができて……というサイクルに魅力を感じていて。 多くの方に花の一生を見せたい、本来の姿を見せたいという思いから、花屋とは別に、作家として、朽ち果てた花や葉っぱ、実を使って作品をつくっているのですが、それはずっと続けていきたいです。 じっくり向き合って手を動かしていると、ずっと見てきたはずの植物でも「こんな形の葉っぱもあるんだ」「こんなふうに色が変わっていくんだ」と新たな発見があって楽しいですね。 つくって完成ではなく、手にしてくださった方の家の光や湿度もそれぞれ違って、変化の仕方も違ってくるので、時間の経過も見せていけたらと思っています。 最終的には、100年後、200年後、土にかえってほしいというのが望みです。
以前、ムスカリの一生を見てみたくなって、球根を1年間、窓辺に置いて観察したことがありました。 花が枯れて、葉がしおれて、球根が茶色くなっていく。水はあげなかったのですが、球根自体の水分で、翌年の春、ちゃんと葉が出てきたのには驚きました。 その姿が本当に愛おしかったです。意識せずに日常生活を送っていると気づかないけれど、そこにある。 お店や作品づくりを通して、そういうことを提案していけたらいいなと思っています。

西別府 久幸(にしべっぷ ひさゆき)
鹿児島県生まれ。東京・南青山にある「花屋 西別府商店」店主。ネイティブフラワーを中心としたアレンジメント制作や月1回のワークショップ、店や空間のディスプレイのほか、作家として年3回ほど個展を開く。店をともに営む「はいいろオオカミ」の佐藤克耶氏との作品づくりも行なっている。
http://haiiro-ookami.com/

(2023年5月 取材)